夜の学校。
不安がありつつも、何だか特別感のある言葉です。
上の記事では、怖さの要因のひとつとして、時間の切り替えが存在することを挙げました。
今回は時間の観点で夜の学校の特別感について考えます。
学校に存在する、切り替えのスイッチ
とは何でしょうか。
「学校に存在する」というよりは、至る所に存在しているんですけどね。
そのスイッチとは、黄昏時(たそがれどき)。日常と非日常の境目となる時間です。
黄昏時は、昼と夜の境目にある時間であり、有り体に言えば夕方のこと。段々と薄暗くなってきて、目の前にいる人の顔もよく見えなかったりする、あの時間です。
黄昏時という言葉は、映画『君の名は』を見た人にとっては馴染み深い言葉ですね。作中では「かたわれどき」なんて言い方もされていました。
夕暮れの薄ぼんやりとした中で、目の前にいる人の顔もはっきり見えない状態。「そこにいるのはだぁれ?」という意味の「誰そ彼」と聞かなければならない時間帯だったことから、たそがれ時と呼ばれるようになったそう。
この時間は暗いため色々と良くないことが起こる時間だとされ、大禍時(おおまがとき)なんて言い方もされています。字面がもう禍々しい。
ここから、良くないことが起こるのは魔がいるからだ、と魔に逢う時、逢魔時(おうまがとき)と言葉遊びが発展していったようです。夜はお化けの時間ですから、そのお化けが少しずつ動き始める時間だ、という意味も含んでいるようですね。
学校で雰囲気がガラリと変わるのが、この黄昏時。黄昏時が分けているのが日常と非日常なのです。
日常と非日常
学校といえば、お昼に沢山の人がいる日常と、夜に誰もいなくなる非日常がはっきりと分かれています。
週5日も学校に通っている学生たちにとっては、お昼の学校は生活時間の大半を占める日常なのです。それが、授業が終わって放課後となり、学生たちがひとり、またひとりと家路につくと、雰囲気が一点。非日常空間となります。
夜の時間の日常はどこに行ったかと言えば、学生たちそれぞれの家にあります。これらを表にまとめると以下の通り。
時間帯 | 学校 | 家 |
昼 | 日常 | 非日常 |
夜 | 非日常 | 日常 |
ほとんどの学生にとっては、平日はお昼に学校にいるのが日常、夜になったら家に帰るのが日常です。
この視点で考えると、平日のお昼に家にいるのも非日常であり、こちらも特別感があるものです。風邪を引いて休んで、平日の午前中にやっているテレビを見たりしていると、 何だかワクワクした記憶があります。あなたもこんな経験、ありませんか?
ですが、これは夜の学校ほど強烈な特別感があるわけではありません。なぜなら、他者との共有範囲が狭いからです。家の中の出来事だと、その家の中で完結してしまいます。
しかし夜の学校に誰もいない、というのはクラスのみんなが同じ認識でいます。誰もが夜の学校は非日常として認識している空間だからこそ、強烈な特別感が生まれるのです。
特別感は、多くの普通があるからこそ生まれてきます。
曖昧な境界
日常、非日常を分けるスイッチとして黄昏時があるとお話ししましたが、その境界、実は曖昧なものになっています。
夕方6時できっかり切り替わり、なんてことにはならず、夕方5時くらいに段々と暗くなり始めて、7時くらいに「そろそろ夜だね」なんて切り替わっていきます。
上の表で言えば、以下のように曖昧な時間が入ります。
時間帯 | 学校 | 家 |
昼 | 日常 | 非日常 |
黄昏時 | 日常かな? あれ、でも非日常かも?
境目は曖昧 |
|
夜 | 非日常 | 日常 |
放課後、学生たちが帰っていくに従って、ワクワク感も比例して上昇していきます。徐々に上昇するのが大事で、「夜になった」と認識した時のカタルシスに繋がるのです。
夜の学校の特別感
黄昏時を経て、みんなにとっての非日常空間となった夜の学校。その舞台にいるだけで特別感が生まれます。
ひとりでいる時も特別感がありますが、少人数の誰かと共有している状態だと、相乗効果でより一層の特別感に繋がります。
夜の学校にいるというのは本来いるべきでない場所にいる、という禁忌を冒した状態ですから、その秘密の共有によって、その場にいる人の結束も高まることでしょう。
こうした背景から、恋愛をテーマにした小説やホラー小説では学校を舞台にしている作品が見られます。秘密の共有は恋愛の重要な要素ですし、ホラー小説でも秘密や恐怖体験の共有は重要です。
小説や漫画で夜の学校を舞台にした作品に触れたことがあれば、そこから先に「夜の学校は特別」という印象を受けていることもあるかもしれません。夜の学校の実態と、それを舞台にした作品のフィードバックによって、この特別感は強力なものになっていきます。
まとめ
夜の学校でなんだかドキドキするのは、その特別感を生み出すスイッチがあるからです。そのスイッチとは、黄昏時。
同じ学校という空間でありながら、お昼には人が大勢いる日常空間、夜には人のいない非日常空間といった形で、時間帯によって姿を変えるというのが重要になります。
この特別感は、学生たちが主人公の甘酸っぱい恋愛小説だったり、ホラー小説の舞台として親和性の高いものとなります。
今回は『君の名は』のテレビ放送を観たので黄昏時ネタを入れたくなりました。黄昏時自体もミステリアスで不思議な時間帯なので、小説に盛り込むにはもってこいです。